いつからか、パニックを起こしていない長男

療育期の長男は、毎日何かしらのことでパニックを起こして泣いていた。いつパニックを起こすかわからないので、妻と私はいつもビクビクしていた。その上、当時は家で長い時間過ごすことができなかったので、週末は必ず何処かしらへ出かけていた。出かけ先にはもちろん、パニックを引き起こす多くの因子がある。乗り物、時刻表、予定外の休業や展示取りやめなど、パニックのきっかけになりそうなものが、たくさんある。長男がひっくり返って大泣きしてしまうことがよくあった。その度に、妻と私は絶望感を味わっていた。
我々親はいつも生きた心地がしなかった。本来関係のない次男も、自分のやりたいことができずストレスをためていたと思う。もちろん、本人も常に髙ストレス状態だったので、苦しかったと思う。皆が辛い時期だった。小学校に入学しても、パニックの到来を恐れる生活は続いた。

話は少し飛ぶ。今年、コロナ禍で生活は一変した。学校は長期休みになり、生活様式も大きく変わった。この一年を振り返ると、長男の自閉症特性で困らされた記憶がほとんどない。パニックを起こして大変だった記憶がない。ここ1~2年、長男はほとんどパニックを起こしていないのではないかと思う。「昔はあれだけ困っていたのに、何故?」

自閉症グレー判定の親御さんから話を聞くと、普通級で過ごしてきたグレーだったり境界線上の子は、長男と同じ時期に躓くことが多いようだ。コミュニケーションが高度になり、勉強が難しくなると、今までは上手くいっていた子が壁にぶつかってしまうのだという。小学校の高学年になると自我が育っているので、支援級を受け入れられなくなるらしい。出来ないことが自分でも明確に分かり、”ほかの子”との違いになんとなく気付き、困りごとを上手く解消できない。このストレスと不安で二次障害を引き起こしてしまうことがあるという。妻の情報だが、ママ友達の子に何人かそのような子がいて、親御さんはとても大変なのだと聞いた。ごくごく軽度な自閉症にも拘らず、生活に大きな支障が出てしまうらしい。

このような話を聞くと、今の長男の安定度合や本人のリラックスした生活、好きなことをして楽しそうにしている姿を見ると、不思議な気持ちになる。

自閉症の重さと幸せは必ずしも比例しないようだ。むしろ軽い方が苦しいことすらある。現に、かなり軽い自閉症を持った私は10代20代で相当な苦労をしたし、今も何かと困難を感じることがある。

なぜいま長男がパニックと縁遠い状態でいられるのか。成長によるものなのか、薬がより効くようになったのか、先生や友達の影響なのか。文章化して発信したいのだが、要因が特定できないのでそれは叶わない。

一番怖いのは、いまの安定は偶然の産物であって、いつ失われるか分からない、ものであること。おそらくないと思うが、今の平穏な生活がなくなってしまうのは恐ろしい。だから、今の安定を生み出したものを特定したいと思っている。一過性のものにしないためには、知っておくべきだと思っている。

コロナの終息と共に、今の安定が今後も続くことを切に願う。