自閉症初日 ~後編~

自閉症を受け入れること これでスタートラインに立てます

ママ友の情報ネットワークというものがある。赤ん坊が年齢月齢でどのように育つものか、平均的な成長の度合いがおおよそわかる。人づての情報以外にも、子育て情報はネットやテレビ、書籍からいくらでも拾い上げることができる。妻はそれなりに情報や知識を手にしていたので、わが子の成長が「どうやらおかしい」ことに気が付き、自閉症の可能性について考えるようになっていた。自閉症について調べ、仕入れた知識をわが子に照らし合わせると、合致する点が多くある。今日診断を受けるにあたり、一応覚悟はしていた。

予想通りの診断結果だった。覚悟はしていたつもりだったが、ショックは大きかった。妻はしばらくうつむいて泣いていた。先生は、妻が泣き止むまで時間を与えてくれた。さすが専門家は慣れている、と私は少し冷静に思っていた。私は妻ほどはショックを受けなかった。ショックよりも、申し訳なさを感じていた。長男を自閉症にしてしまったのは「自分のせいだ」と思ったからだ。自閉症には遺伝的要素があるという。妻が自閉症について調べた知識を私に話してくれた時、最初に思ったことも自閉症の遺伝のことだった。私は、何十年も心身症や躁鬱に悩まされてきたので、喜怒哀楽が弱い。”告知”の瞬間も、ショックは受けたものの、かなり冷静だったと思う。冷静を取り繕った、というのが正しい表現だが。

悲しいし辛いけど、全てが終わったわけじゃありません。自分次第で未来は変わります

私は、自閉症について仕入れた知識を一つひとつ提示して、正誤の取捨選択、わが子に該当する自閉症の特徴などを、矢継ぎ早に先生へ質問した。少し冷静になった妻も、気になることやわが子の自閉傾向などを質問した。診断は2時間ほどで終わった。施設から家までの間に何を考えていたか、家に帰ってから妻と何を話したか、まるで覚えていない。ただ、妻に対してこんな言葉をかけたことだけ覚えている。

「残念な診断結果だったけど、漠然とした不安はなくなった。自閉症だということがはっきりした。これで前へ進める」

強がりめいた言葉だ。私は冷静でなければならないと考えていた。感情を表す言葉を言わないように気を付けた。私が冷静であれば、妻は泣いて感情を発散させることができると思ったからだ。

診断を受けた日から、私たちの戦いの日々が始まった。泣いていた妻は、とても強くなった。分岐点の一つは、「自閉症という事実を受け入れられたこと」だと思っている。案外、ここで躓く家庭が多いらしい。我が家は「いいスタート」を切ることができたと思う。妻のおかげだと感謝している。

ただ一つ、後悔していることがある。私は長男のことで、今まで一度も泣いたことがない。あの日、感情の全てを押し殺したからだと思っている。悲しみの涙だけでなく、感動の涙も流していない。おそらく、これから先も私が泣くことはないと思う。

「あの日、思い切り泣いておけばよかった」

母親の強さは泣きはらしても前を向けるところです。父親が見習うべきことが沢山ある、母は偉大だと思っています

この時願った通り、仲のいい兄弟でいてくれています