字を書く技術①
自閉症の困難を体験する方法の一つに、紙と垂直に置いた鏡を見ながら字を書くというものがあった。講座でこれを体験したのだが、この体験の趣旨は「自閉症児の中にはこのぐらい字を書くことが大変なんですよ」と知ることで、“苦手なことを無理強いすることのストレスを知る“というものだった。
未就学期の長男は鏡文字を書いていた。弱々しい筆圧で糸くずのようにニョロニョロとした字だった。鉛筆の運び方はぎこちなく、辛そうに字を書いていた。
今の長男は、綺麗ではないものの、ちゃんと読める字を書けるようになった。筆圧は整い、枠や罫線からはみ出さないように字の大きさも調整できるようになった。複雑な形の漢字も書けるようになった。
例によって「あくまで個人の感想です」となる我が家のケースを書く。
■未就学期 : 鉛筆に苦手意識。字を書きたがらない
初めて字の練習をしたのは、未就学期の療育だった。クラスの他の子よりも筆の進みはおぼつかず、時間もかかった。鉛筆の動きはかなりぎこちなかった。筆圧がかなり弱く、4Bを使っても薄すぎて字が読みづらかった。当時、視覚の記憶力によって読める字の数は多かったのだが、文字としての認識はなかったようだ。いざ書いてみると、読める字の大半は書けなかった。記号や模様として認識していたのではないか。書写にもかかわらず、絵を描く模写のようだった。
療育では、先生は鉛筆の扱いに慣れる為、字を書く機会を根気強く設け続けた。この時の苦労がその後に役立ったと思っている。療育の先生方にはとても感謝している。
■小学校低学年 : 学校に慣れることが最優先。書写の練習は少しずつ
過去のブログに書いた通り、長男は小学校入学からしばらくの間は、常にストレスを感じており精神的に不安定だった。その為、勉強よりも学校に慣れることを優先した。長男は当時、失敗することが大の苦手だった。失敗を恐れるが故、初めての課題に取り組むことを渋った。
上手くいかず苦手意識を持たせない配慮として、蛍光ペンで下書きをしてから長男に渡した。蛍光ペンをなぞることで、鉛筆の取り扱いに慣れさせた。糸くずのようなニョロニョロや筆圧の弱さは少しずつ解消された。
■小学校3年生 : 二学年下の教材からスタート
学校と鉛筆の扱いに慣れた後、書写のカリキュラムをようやく開始。自分の学年よりも下の、1年生の教材からスタートした。毎日必ず書写の時間を設けて日課にすることから始めた。最初のうちは、教材にも蛍光ペンで下書きをしてから提供した。
簡単な教材から始め、少しずつ難しい教材へ移行する。失敗が苦手な長男には、この方法がベストだったようだ。下の学年の教材に取り組むのは、算数でも取り入れている。今は国語と算数は一学年下の教材まで進んでいる。
このように、歩みは遅いが少しずつ経験を積むことで、長男は少しずつ上達した。次回、最近の取り組みや漢字に対する意識について紹介する。